絵デカいで注意笑
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裏設定小噺。
裏設定の載ったチラシの内容を元にして書かれた以下小噺。
信、政、王賁、蒙恬の順。 ( ゚∀゚ )←笑
――――――――――――――信 【大嫌い。大好き】
「こらオッサン。さっさとコイツに謝れよ」
周辺地域の見回りと称し、途中立ち寄った城が悪いのか。
それとも吼えるこの者気質が悪いのか。
否、双方とするなら事態が悪化する事など明白であった。
「ぁあ゛?頭ワルそーなガキが眼付けて来たと思ったらマジで頭ワリィんだが」
「いーんじゃねーのォ?こうしてワザワザいぢめて下さいって言ってんだし健気だろォ」
言って大笑いする男二人組は見た目からして如何にもといった体である。
悪漢と称して相違ないそれら。
しかし果敢として臨む者もまた、同属と見紛われて文句の言えぬ見目であるから惜しい。
三者睨み合い、並みならぬ剣幕が交差するなか。
彼の姿を認めた寳子がその場に立ち入り、信に声を掛けた。
「いたいた・・信!お前こんな所で何ほっつき歩いて・・ ・・・どうした」
「このクソヤロォ共がそこのガキにわざと当たってブン殴って金巻き上げたんだよ」
「ヒュー!何だよお前バカそうな面して女持ちかよ!」
「甲冑なんぞいっちょ前に着やがって、見せかけって事なんざお見通しなんだよォ!!!」
「・・なるほど。救えない」
「だろ?」
二対二で向かい構える。
巨漢の男と信が、痩躯の男と寳子が対峙した。
「止めろとか言わねーよな。向こうが悪ィんだし、何も殺しゃしねーよ」
「ここは戦場じゃない城だ。 城下で喧嘩はよく聞く話、となれば・・いちいち止める理由はないな」
喧嘩の勝ちの常套とは。
「捕吏が来る前に伸して逃げる」
「話の分かる貴士族ってぇのはおっかねーなぁ」
よくわかっていると、泥仕合ばかりをする喧嘩好きが声高に言うものだから含んで笑いもする。
ただし得物は使うなと寳子はまず自らの剣を置く。
すると信も彼女に倣い、素直に剣を置いた。
「ぁんだあコラァ!てめぇらさっきからブツブツとよォ!!!」
「大っ嫌ェなんだよなぁこういう奴ら」
「これだけ曲がっていては直そうとしても折れてしまうかもな」
例えそうなったとしても知る所ではない。
何の責任も取る気はないと寳子は感慨なく言ってのける。
悪漢らが距離を詰めるとそれに対するようにして信も揚々と場に躍り出た。
「馬鹿バカって人のこと好き放題言いやがってふざけんなよンの野郎ォ!!
てめーらのそのひん曲がった根性叩き直してやらァッ!!!」
怒り以上にどこか嬉々として臨む信の姿に、寳子は言いたい事を全て呑み込んで閉口する。
関わってしまった手前このまま放ってもおけないと彼女は筋を伸ばし、
飽 く ま で 諦観の念を全面に身構えた。
「おら久々のケンカだこの野郎ォ!!面貸せやオラァ!!!」
「ブチ殺したらァ!!!」
「やってみろやコラァア゛!!!」
「おーおーこっちのねーちゃんは澄ました顔して・・ヒヒヒ。
おにーさん人の顔が歪んで咽び泣く姿が大好きなんだけどォ〜♪」
「普段下衆のいう事には聞く耳持たんのだが。
そんなに見たいと言うなら、お前自身の顔を私が歪ませて鏡で見せてやってもいいぞ」
「ァんだとォ!!」
「この至近距離で聞こえないのか。お前は耳が悪いのか頭が悪いのかどっちだ」
「・・・あ゛?もっぺん言ってみろや」
「嫌味を聞きたがるとは理解し難い趣味だな」
「ブッ殺す!!!」
言い掛け最中の男の蹴りを寳子は素早く上体を反らし躱す。
空を切る男の足をそのまま取り上げ、吊り上げると横腹に踵を落とし股を裂いた。
彼女が颯爽と距離を取ると同時に男の叫びが天に上がる。
「ィギヤァアアアアアアアアアア!!!!!」
「そんな大声で叫ぶな。捕吏が来る」
「(ぶっは!ひっでぇ!!)おらおらテメーももっと腰入れろオラァ!!」
信の挑発に乗り巨漢が力任せに拳を突く。
互いに攻めの体であるが、体躯の差が彼らの喧嘩の流れを作る。
信は猛攻ながら遅鈍な男の拳を流し、前のめりに来る勢いを逆手にとって顔面に己が拳を喰らわせた。
めり込む面からは小気味よい音と声にならぬ声が聞こえ、手応えありと得意げに口の端を上げた。
一方の寳子も飄々とした体で応戦する。
負けじと立ち上がる痩躯の男は、しかし無駄のない筋骨が憐れに思われる程に腰が引いていた。
間髪入れずに繰り出される拳を左右に避けると、男の顎を狙い澄ましたように打つ。
浮き上がる悪漢が崩れそうになる所を右の拳左の拳、そして最後にトドメと顔面を思い切り握った拳で殴りつける。
娘にしては常軌を逸する打撃に、男は心身共に理解が追い付かないでいた。
「おゴバァ!!??!?」
「お前のような厚顔を素手で殴って私の手が怪我をしても詰まらん。
故からこうして手甲を仕込み、思いの丈をぶつけた次第だが・・伝わらなかったか?」
先程喰らった痛みに加え、余裕のない男がそんな様に気付く筈もない。
ついには膝をつき、慄く様にして男は寳子を見上げる。
すっかり気の萎えた矮小を見下す。
物欲しそうな顔にまだまだあるぞと、寳子は見せつけるようにして拳を握り込め身構えた。
「カカカッ!おーら参ったかお前ら!大王の剣と盾は強ぇんだぞッ!!」覚えとけ!
完勝の内に終える寳子を傍目に、こちらも終わったと手を掲げ駆け寄る信。
それを認めるや否や、寳子も構えを解き彼の元へと足を向ける。
「なんだお前得物なくても強ぇじゃねぇか!斬らねぇし優しートコあんのな!」
「言ったろうここは城だと。
戦時でもない・・幼子もいる。こんな所で死体を揚げるような真似はしない。
何より得物とは討ち果たすべき好敵手らの為のもの。下衆に物を教えるなら拳が一番だ」
一息吐くと手を払い、何より武人とは体が資本であるからと付け加えた。
「あいっかわらず聞いてて肩こってくんなぁったく。
今のケンカみてーにバババーっと言っちまえばいいのによ」カカカ
「何だ、お前も喰らいたいって?」拳を
「ウソじょーだんだって」しまえその手
基本を通したまでと言うその体は、乱世を生き抜くには固く、また甘く聞こえる。
しかし実際にその信念で戦い続けてきた事実がこうして生きて目の前にいる。
実直なまでのその強さに信は、口には出さずとも敬し、また心地好さを感じていた。
小休止という間にも捕吏出現の報が彼らの耳に届く。
不味いと踏んだ両名は剣を抱えると伸びる悪漢共には目もくれず、一目散に逃げ出した。
途中助けた童とすれ違うと、信は振り返り金子の入った袋を投げて寄越す。
すぐさま前を向く信の代わりに、頭を下げる親子の姿を寳子が認める。
逃げの最中だというのに口の両端が上がって仕方がない。
寳子は先を行く信の背を大袈裟に叩くと、痛がる彼を押し退けて先に立った。
何とか逃げ果せ人気のない所で腰を落ち着かせ休む。
仲間の買い出しも終わったろうと、各々それなりに思い巡らせる。
しかしこれまで全力で駆けていた彼らにとって、共に立ち上がろうという意志の疎通はなかった。
「ゼー・・ハー・・・ ・・まァ、にしてもアレだな。
最初は澄ました顔してたクセに、お前もケッコー好きなんじゃねぇの?」ケンカ
「ふー・・ ・・・少なくとも嫌いではないな。あれほど分かり易い下衆なら手の下しようもあるというものだ」
「ぶわぁっはは! ばっか。それを大好きだってゆーんだよ」
そうなのか、と。
和やかに笑って見せる彼女がその答を素知らぬか徒知らぬかは、それこそ定かではない。
笑い合い拳を合わせると、彼らの間には気味良く爽涼な風が吹き抜けた。
――――――――――――――政 【乱世の王】
九つの時分、政と寳子が初めて出会ってから数日と経たぬうち。
彼女が彼の部屋を訪れると眼前には大凡予想だにしない光景が広がっていた。
「な!!!」
「?」
吃驚に声を上げ固まる寳子に、次期大王贏政は疑の体で―――――
否、汗に塗れ彼女を見る体は明らかに書簡を読んでいたであろうそれではない。
政は動かぬ寳子に一瞥をくれ、特に反応もない事を確認すると流す。
怒号は遅れてやってきた。
「なぁにやってるんですかぁああああ!!!!!」
戦慄きが部屋全体に広がるとさすがの政も鍛練の続きとはいかず手を止める。
気が散ったと若干恨めしそうに見詰めるも束の間、彼は寳子の持つ珍しい紅紫紺の内に稲光を見た。
「そんなやり方じゃダメですッ!!筋を痛めてしまうでしょう!
ってうわわ!す、すみません・・えっと。
さ、さしでがあし・・ようですが、 ・・・も、もしご迷惑でなければ」
(か、噛んだ・・)
(噛んだな・・・)というかちゃんとするならいいのか
見える紅潮の体は熱か羞恥か。
見分けのつかぬ彼女を前に、すっかり気を削がれたと政は汗を拭い身形を正す。
「もっと砕けた話し方でいい。王族だからと難しく話して伝わらなければ意味はない」
「は、はい・・」
「それにお前には俺の名を呼ぶ事を許している。妙に気張るな、こっちまで息苦しい」
「!・・はいっ!」
淡々と語る政に様々応と返す寳子。
前向きな彼女の声、これには一時生じた恨みも双眸を閉じると消えた。
「で―――――迷惑でなければ、お前が教えてくれるとそう言いたいのか?」
「はい!技術的なものはまだまだですが、
筋を痛めぬように鍛練をするという事であれバ、私もお力になれるかと思って!」
「(ん・・?)・・そうか、なら頼む」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!!」
「・・・・・・・」
朗らかに受ける寳子は快活に淀みない。
政はそんな彼女を快く思うが、以前に一つの違和が彼の気を割く。
そんな事とは露知らず、寳子は政に近付くと然として言い放った。
「それじゃあまず身体を見せて下さい。筋骨の付き方を確かめますので・・」
「わかった」
「ってわーーー!!別に脱がなくていいんです衣の上からで十分なんですーーーっっ!!!」
先程よりも更に赤い顔でもって、慌てて衣を直しにかかる。
身振り手振りとする彼女と微動だにしない彼の温度差は、当人らから見ても激しいものに感じられた。
(贏政さまって隙がなく見えるけど、実はすごく素直でいらっしゃるのかなぁ・・)わわわ
(・・・こいつとの遣り取りは一癖あるかも知れない)
難と気配を察する。
さすがと、しかしこの予感の正当性を
何年とかけて自ら証明していく事になろうとは、まさかこの時の政も思うまい。
出会って数日の事である。
((大変だな・・))これは
素直と天然は互いに胸中で呟いた。
しかしながら汗に濡れた衣では身体に障ると、構わぬ政を押しのけて寳子は新たな衣を用意する。
脱衣時こそ背を向けるが、程なくした所で―――――やはりその顔は赤く、手を加え直しにかかる。
目を泳がせながらもテキパキとする彼女の様を見つめると、少し笑ってしまう。
真白く軽い衣は彼の体に馴染んだ。
(おっ、おかしい・・どうしてなんだ。
別に男の人の体なんて見るの初めてじゃないのに・・)
平時から武人に囲まれる事もそうであるが、戦場の雄姿を見る彼女にとって光景としては珍しくない。
それでもこうして心定まらぬ訳を、情を知らぬ彼女がその尾さえ掴む事はない。
至って冷静の内に事を為しえようとする寳子だが、見ぬようにと言っても全く見ない訳にもいかない。
嫌々としては誤解を招くと、彼女なりに毅然と振る舞う。
そんな中にあって、先程には見えなかった傷だらけの身体に気付く。
羞恥にあった顔色が変わる。
まじまじと見ていいものではないと、視線を傍へ外した。
(贏政さまはこれまでずっと趙にいたから・・ ・・どんな扱いを受けてきたかなんて)
因縁深い敵国に長きに渡り人質として捕らわれていた事実。
父親が王としての白羽の矢を立てられ、その子である次期王の政が趙より命からがらこのたび秦へと舞い戻った結果。
それら事柄だけを彼女は知っていた。
(お母上、太后さまもどんなお気持ちで・・守りきろうとしてこの傷なら、趙の者の恨みは相当だ)
無論趙人ながら敵国の、しかも王族の子を産んだ母親とその子がどのような関係であったかさえ、この時の寳子には想像さえ難い。
彼女はこのとき既に後宮の使用人として在ったものの、太后が戻った頃と合わず―――――
またその後も女官に相当せぬ位置のため、暫くは政の母親に目通り適う事がなかった。
長平における憎悪を一身に背負った痕。
正しくも足り得ないそれは、彼女の咎ではない。
了とすると寳子は何も言わず衣を正し終える。
その気遣いは政にも伝わっていた。
「寳子」
「え!あ、はいっ!」
「それじゃあ教えてくれるか。俺は乱世を渡る強い王になりたい」
「は・・ ・・・はいっ!!」
まずはと基本の型を実践する。
初めは膂力を高めるだけのそれも、次第に熱が入り体術の初歩へと移行する。
手を取っては高さを、足を引いては間合いをと指導に当たる。
これには彼女もすっかり慣れたのか、もはや相応にはにかむ事もなくなっていた。
暫し休憩とし、やはり汗に塗れた体から衣を変える事になる。
そうなるとまたしても様の変わる彼女に、政はきりがないと特に取り留める事もしない。
「寳子、お前剣を扱えると聞いたが」
「はい!殿の子ですから!!」
胸を張って親を誇る彼女の眩しさに政は視線を落とす。
事情を知らぬ寳子は何の思案かと巡らせるが理解に至る事はなかった。
「ゆくゆくは仕官し、本格的に戦場に出て敵将を討つ・・
たった一人で戦況をも変える将の頂、大将軍を目指しております!!」
「―――――――――」
夢を語る紅紫紺の眼差しは、幼いながらに宝である。
己が瞳はそれではないがと、しかし彼も夢を持っていた。
「頼もしいな」
そう言う政の目は穏やかに彼女の夢を内包する。
ならば輝きを同じくせぬ筈がないと、きっとそれも宝であった。
「剣の特訓をつけてくれないか、寳子」
「はい!
・・・・・はいっ!!?」
一度目を応として二度目は疑とする。
三度目はなく、ただ否と彼女は首を横に振った。
「だっ、だだ駄目ですよ贏政さま!私など剣を始めて三年のまだまだ未熟者で!
もしあなた様に怪我でもさせたら殿に、国の者達に合わせる顔がっ・・!」
口早に拒否の体を露にする寳子に、この王の器が引く筈もない。
三年やって付ける傷の意味もわからぬようなら止めろと、政は断固として聞き入れなかった。
「武器を扱うとは、それも含めて受け入れるという事だろう。
・・凶刃を取るという事は戦うこと、そして」
言い淀むとついには口を噤む。
言うだけ言って成るものかと、未だ剣を碌に得た事のない政は躊躇いを見せる。
名を呼ぶ彼女にも反応せず、しかし答えは意外な所から発せられた。
「その先の、死をも受け入れるということ」
「!」
ならば未熟者とて三年と。
血の付く剣を知っていると、彼女は畏れながら申し出る。
「・・・でも得物を持つという事は、あくまで勝つため。生き延びる事こそが前提なのです」
首を擡げる懸念のみではない。
続く先を見るからこそ振るい、振るわれるものであると寳子は言う。
政は言い切る彼女から、誇るその者から視線を外せないままでいた。
「でも、本当ですね。剣を振るう者がその傷から逃げるなんて」
それでも王族に対し他の了解なく振るえば罪となる。
勝手に教授したとなれば王を死地へと追いやる動機を与えた不届き者として罰せられてしまうと、寳子は頬を掻き溜息を吐いた。
「了とする所は俺にある。・・罰せなどさせない。お前を罰するそいつを俺が罰する」
その声は、彼女だけに確と届く。
「・・・強気で、そして意志を固くお持ちなのですね」
今はまだ、己が見える位から裁量を持てると思っている。
秦に帰り微量ながら権が及ぶと思っている。
実に恐ろしい事と、しかし彼女は嬉しそうに頷いた。
「では誓って下さい我が王よ。振るえる刃を決して死剣にはしないと。
いまここで。あなたはあなたの大望を叶えるため、その為の活剣として武を収められる事を」
従者が主に宣誓を請う。
それは従者という名の彼女の願いであった。
従うに能うは明白、ならば主が主たるに能う証を求めるのみ。
「でなければ私は、あなた様の相手にはなれません」
この時、彼女も誓いを立てた。
『自らで決めよ。確と己の目で、一体何が能うのかを見定めるがいい』
この身では足りぬと言った少女に、男が吐いた言葉は臣下のそれであり父としての激励であった。
寳子は贏政を、己が王と見定める。
故に相応という言葉など知った事かと然とし―――――無骨に、憚りなく。
それでいて凛として佇むのだから敵わないと、王は彼女の先を見て返した。
「・・・お前こそ強情だな」
「えっ!?」ごっ・・!?
「ならお前も約束しろ。
・・俺を護る為と言って、簡単に命を投げ出さないことをだ」
王が従者と認め、互いに誓いを交わす。
しかしこの従者は難であったと、政は既に自ら察していた事にこの後気付く。
「それは無理です」
「なに・・」
「私達は王を活かす為の剣を振るうのです。
―――――我々の剣は、死したとて王を生かせればそれこそが活剣なのです」
勝ち抜き、生存を前提としても。
能う場所があるのなら厭わないと言う。
厄介である。
難であるとは知っていた。
それでも伸びた手は互いを必要とし一途に求める。
固く握った手を離さない。
指し示す者と切り拓く者は、ここに主従の契りを交わした。
20130727
――――――――――――――王賁 【好物の薬】
幼少の彼らには主に鍛練と称し落ち合う場所があった。
大将軍格、王騎の根城である。
敢えてその場に集まり、ともすれば数日に渡り厄介になっていたのには理由がある。
三者のどの領域でもない、ここならば家のしがらみも届かぬであろう算段ゆえであった。
そうは言っても あ の 王騎の場であるというのだから肩肘も張る。
居座る彼らとて初期のころ躊躇したというのに、傍からの反応ともなれば芳しいものである筈がない。
王氏とて、否、血を分けるからこそ本家は彼の存在を殊更に意識していた。
目を付けるが故に手を出すに容易でない事も知っている。
またそれは落ち合う場所を此処と定めた時の王賁の体を見れば厭でもわかるという具合であった。
故に出先をいくらか改する事も辞さない。
彼らにとってのこうした日常は、主にその下に就く者達の心遣いの賜物である。
この日は彼らの内で早朝訓練が予定されていたものの、退っ引きならぬ事情から急遽変更し休息日とされていた。
しかし彼女が現れた理由とは、正にその事情に因る所である。
寳子は廊で彼の姿を認めるや否や、憚る様にして立ち尽くした。
「もう起きて平気なの王賁っ!?」
「・・・・・」
開口一番に声を張り、身を案ずる体は仕方のない事だった。
「なんだもうっ・・!昨日あなたが急に倒れるから・・
・・でも良かった。 こっちは、ずっと、ずっと心配で・・」
「!?」
会話の最中その場に倒れそうになる寳子を、王賁は咄嗟に抱え緩やかに膝をつかせる。
朦朧とする姿を認めると肩を揺すり、何度か彼女の名を呼んだ。
「ぁ・・?あ、わ! ご、ごめんなさい・・」
「・・・・お前が倒れてどうする」
「ふふ・・ ・・・うん。寝ないと倒れるって本当なんだ・・」
目を閉じ、たどたどしく語る内容によれば。
どうやら昨日事態が起きたのち至急王都に戻り、のち誰彼を巻き込み夜明け前まで書を読み漁っていたのだという。
病の事から薬の事、心気に至るまでのあらゆるを網羅してきたと最早笑う気力もない。
それを聞き王賁は、彼女のこの体は偏に己が不覚に因る所と知る。
彼は黙ったまま肩を貸すと共に立ち上がった。
「俺は訓練をするがお前は寝ていろ」
「・・・嫌だ、いっしょに ・・って。言いたいけど、もう」
今すぐにでもここで寝てしまいそうだと、か細い声で言う。
引きずるようにして連れるなか、相当眠いのか寳子はうわ言のように何かを口にする。
これに適当にも相槌を打ってやる彼ではない。
流すまま王賁は何一つ返事をする事もなく、彼女を寝室へ送り届けた。
寝床で横になるや否や体勢を直す事もなく寝息をかく寳子。
憂いを感じぬ寝顔を不意に覗き込むと、目の下にはうっすらと隈ができていた。
勝手にやった事と、やはり掛ける言葉など何一つとしてない。
寧ろ寝室まで運ばされるという労を強いられ文句の一つでも、否それさえも面倒と一蹴する。
思えば八つの頃に出会ってから厄介事しかないと、王賁は珍しく物思いに耽ると寝入る寳子を暫く彼は見つめていた。
数刻ののち、陽も昇りきった昼の頃。
食べ盛り、それが多く日に間食含め五食までに至る童の腹のモノともなれば盛大に虫も鳴く。
恵まれている。
強者の背を見る以外にあらゆる面において救われていると、この頃の寳子は既に理解し返すべき恩の一部として甘受していた。
音も然れば空の臓器の捩じれる痛みでもって目を覚ます。
(おなかへった・・ ・・・そのまえにのどかわいた・・ ・・・)
このままでは埒が明かないと部屋を出る。
すると途端に鼻腔を擽る吉報に腹の虫が号を為した。
到底無視できるものではない―――――常日頃、この時間に軽食を採るようにしていた彼らの腹時計は実に正確なものであった。
掛け出す先は知っていると匂いのする方へ向かう。
彼女は確信を込めてその部屋の扉を開けた。
「あ!ぎょくしーっ♪ おはよう、大丈夫?」
「恬来てたのか! うん、もう大丈夫!」
言って彼女らは掌を合わせ挨拶をし、もう一人の馴染みに関しては機微さえ感じ取れぬと浮いた手を仕舞う。
気を取り直し寳子は目前の料理に爛々と目を輝かせ着席する。
王賁、寳子、蒙恬の三者はいつものように定位置に腰掛け、まずは一杯と水を呷った。
「ぷはー!生き返るーっ!」
「寳子おっさ〜ん」
「だぁってノドかわいて・・ とと。さっきは寝室まで運んでくれてありがとう王賁、お陰でよく眠れた!」
「廊で寝られても邪魔なだけだ」
「ぐっ・・」
素直に礼を述べたものの、こう邪険にされてはその言葉の意味も行き場を失う。
淡々と食事をする王賁を横目に寳子は閉口し、反論もできずただ呻いていた。
「でもね寳子!ご飯の匂いで寳子起きてくるだろうから待とうって言ったの王賁なんだよ」わはー
「違う。俺は料理が並んで暫くもせぬ内にあいつは嗅ぎ付けるだろうと言っただけだ」
すかさず入る蒙恬の取り成す言も、これまたすかさぬ王賁の撤回でもって意味を成さない。
出会って三年目。
今更とは思いつつも、こういった場合に流れる独特の空気というものには
得てして慣れぬと、一人を除く二人(主に蒙恬)はもはや諦観の念で項垂れる。
(はァ・・やっぱオレ王賁苦手。寳子いなかったらこんなツルんでないよなーきっと)
名家の倅同士としては語り合おうものの、恐らくはここまで刻を同じくしてはいなかったであろう別を見る。
しかし、それでも大凡三年という月日の賜物である。
どれほど、何時、いかなる殺伐とした間が場を席巻しようとも、三者は三様とそれぞれ対処の仕方というものを学んでいた。
暫くしていつものように場も平時と変わらぬ様を取り戻し、歓談と相成る中で彼女はその薬に気が付く。
昨日の今日であるから間違いないと寳子は勢いよくその料理を指差した。
「(あ!ニラ!!)王賁ニラっ!ニラまんじゅう食べよう!」
「いらん。草など食べていられるか」
即答を前に強情とは歯が立たぬものなのか。
果たして対抗し得るのか。
せめて拮抗にまで持ち込み押し切れないかと画策―――――する程の厳談でもない。
「肉ばかり食べて倒れる奴の言うことかっ!こんなにおいしい薬はないぞっ!」
「・・・・・・」
(うわっはー!)言っちゃったー!
「ちゃんと昨日読んだんだ!ニラには強壮の効果があって、元ある力を援けてくれるらしい!
将と兵のそれと同じなんだっ!
将だけである程度の道は開けても、兵がいなきゃ大戦は勝ち抜けないんだ!!」
中々に強引であると。
しかし伝えるべき者に十二分に伝わったのならこれ以上はないと蒙恬は微笑んだ。
(わはーすごい。・・でも王賁相手には一番いい言葉を選んだね、寳子)
チラと彼方を見やる。
納得したのか、それとも問答するにも下らないと敢えて引いたのかは知らないし聞かない。
「・・・・・」
無言で口に運んだその行為こそが答えと、けしかけた者が一番に吃驚の体で眺めるのだから世話がない。
「!」
『!?』
固唾を呑んで見守るなか、にわかに括目する彼の様子を二者は認める。
明らかに否ではない様子にいの一番に喜びを見せたのも彼女だった。
「何だ王賁!気に入ってくれたのか!」
「・・・」ピクッ
(わっ!)
「あははっ、やった!なら・・はい、あげる!」
「!」
(わわっ!)
言って王賁の皿に自分の取り分を置く彼女はひたすらに嬉々としている。
そんな彼女を王賁は怪訝に、蒙恬は恐々として見つめていた。
素直に聞き入れてくれた事もそうである。
しかし普段意識を向けるものが限定的である彼の、妙に気に入る様が何より嬉しいのだと寳子は顔を綻ばせていた。が。
「・・・いらん」
(ちょっと迷った!)わはー!
「?なんでだ。エンリョしなくていい」
「お前に施しは受けん」
「ほ、施しって!出会って共に鍛練するようになって何年経ったと・・ ・・・恬」
「あーカニおいしいなぁ(棒」
「ぐ、ぐぬぬ・・」
わぁ声に出してぐぬぬなんて、オレ初めて聞いたぁ!
「恬、そのカニおいしそうだね。」ゴゴゴ・・・
「 ご め ん な さ い 。」
傍にあったカニのハサミを手に持ち蒙恬を熱く見つめる。
これには鼻を挟まれる悪夢を思い出し、毎度の如く平謝りする蒙恬。
その体からこれ以上迫るでもなく認めると、寳子は凶器を皿に置いた。
「よし!わかった。ならこうしよう」
『?』
「そこにある果物くださいッッッ!!!」
「!」
(おぉ・・!)
彼も素直に言い分を聞いてくれたのだから、こちらも何とかしてと思い至った故の妥協案である。
実際はそこまで大袈裟ではないものの、彼らはいつでもこうして礼には礼を重ねて互いを渡り歩いてきたのだった。
「これで貸し借りはなしだ。私は甘いものに目がなくて。
・・知ってるでしょ?ね、お願い王賁」
「・・・・・」
(あっ!交換したっ!)しかも舌打ちなしで!
「! ・・ありがとう。ふふっ」
「・・・・・・・・・・」
無言で好物となったそれを口に運ぶ王賁に、一方分けられた果実を口にする寳子。
互いが互いを既に見ない。
ただ一言、それは薬だからと彼女は微笑みながら誰彼を気遣い言った。
(ふーん・・ ・・・ま、納まるトコに納まった、のかな?)あ、これウマ
煩わしさや詰まらぬ節介というものを彼は歓迎しない。
それでも利を齎すというのであれば多少の懸念は呑むという、単なる意志の表れだったのかは知れない。
他には何もない。
ただそれだけの事である。
この時は互いが互いにそれ以上の言を持たず平時に戻っただけのこと。
彼女の言う通りこれが薬であるという事を彼は納得した。
以後それから彼女に勧められた強壮に効くという草を
彼はこの日を境に食べるようになった、というだけの噺、その出来事。
――――――――王賁齢十、寳子齢九の頃であった。
馴染みの子らは同じような日々を、しかし様を変えて共に暮らしてゆく。
故に思えば当然の事と、彼らを知る者達は思う。
この噺より更に四年後。
ただ一人、いや二人。
よもやもう一人くらいは感付いていたであろう想いの先が向く。
一人の幼馴染はあらゆる葛藤を乗り越えたのち、彼女に求婚する事となる。
――――――――――――――蒙恬 【姉と妹】
ある日のこと。
蒙家の城の一室で、齢九になる妹と齢八になる姉とがいつものようにじゃれ合いに興じていた。
「寳子がなんでも一つ言うこと聞くって言ったんだろー?」
「だからって何で・・寝るくらい一人でできるでしょー?」
寝転がる妹に手を掴まれたまま、傍に腰掛ける年下の姉は呆れたように溜息を吐く。
ぶつくさと文句を言い合う中で 少 女 は寳子の手を取った。
「そういう意味じゃな〜いの。 ・・寳子の手、あったかい」
「もー・・ ・・恬の手もあったかい。こっちが眠くなっちゃいそう」
言って空いた手で欠伸を隠すが、目尻に光る眠気の跡がその度合いを物語る。
「・・・・」
「なに?額に私の手、当てたりなんかして」
「こうすると、安心して眠れる」
「・・・・そっか。 ふふ」
「?」
「ごめん、くすぐったくて。 恬の髪・・柔らかくて、こそばゆい」
くすくすと笑う彼女に、少女も真似て笑う。
一つは高く、そしてもう一つは少し低い声が一室に密やかに響く。
そんなにこそばゆいならと、蒙恬はわざと髪を遊ばせて寳子の手を擽った。
「えー、そうかなぁ・・?」
「あははっ!もう、やめてよ恬!」
「だって寳子が前フリしたからー」
「してないー、もー・・ ・・ふふ」
悪戯な声がしたと思う時には遅かった。
しかし逃れようとしても見た目以上に力の強い妹に、姉は毎度手を焼かされていたのだった。
一際に上がる朗らかな笑声は彼女らのもの。
(恬ってこんなに小さくてか弱く見えるのに、何でこんなに力が強いんだろう?)
少女 た ち の、声である筈だった。
(蒙武さまの子だからかなぁ・・私も強くなりたいなぁ)
「・・寳子さむい。あっためて」
「あー、またそうやって色々言ってくる」
「きいてくれないの?」
「・・・・きかせてくれないなんてこと、なかっ・・たっ!」
言うと寳子は勢いよく寝床に潜り込む。
蒙恬は驚きつつも直ぐに嬉しそうな顔で笑い、彼女を抱き締めた。
もはや慣れた手つきで少女の頭を撫でると寳子も目を瞑る。
抱き返す彼女に甘えて、更に力を込めるのも蒙恬の日常であった。
「ならこうして一緒に寝よう。今日は寒いし、二人でならあったかいよ。ねっ、恬」
「なーんだ、いつもの昼寝」
「いつものがいーの!
・・寂しくなくて、眠れて。 私、恬と一緒にねるの大好き」
他に何があると、寳子は掛け布を引き寄せ大袈裟に広げる。
頭から足先までを覆うそれから逃れるかのように、二人は顔を出し息継ぎをする。
これがまた可笑しいと少女らは笑い合った。
「うん。オレも好き」
布擦れの音で消え入った。
しかしどうせ構わないと
少女は足りない分を補う上で、もう一度口にする。
「大好き」
はっきりとした口調には、二つの答えが垣間見えた。
胸中にある問い掛けは少女だけのもの。
しかし答え自体は双方に伝わる。
聞こえる声に寳子は、返す様にして微笑んだ。
「それじゃあおやすみ、恬」
「うん、おやすみ。寳子」
この時ばかりは仕方がない。
確とする手を緩めなければならない事実が口惜しい、と。
「・・・寳子」
「ほらー・・またそうやって話しだすー・・・」
眠い目を擦り、寳子は非難混じりの目を少女に向ける。
しかし曇りの見える表情を認めると黙って耳を傾けた。
「もっと」
「んー・・」
「・・もっと、あったかくなる方法、あるんだって」
『いっ、イカンぞそのような話!蒙恬様はまだ十にも満たないというのにっ!』
眠気からか目を閉じている刻が長い。
一瞬眠ってしまったかと疑うが、思い出したように開けられる双眸に少女は安堵する。
しかしまたしても目で訴える。
薄く開いた目は次に疑を抱え蒙恬を見つめていた。
『何を仰いますか!蒙家の跡取りともあろうお方が、十には女の一人でも抱いておかねば示しがつきませんぞォ!』
相伴にあずかれと酒の席だったか、その男は笑いながら言っていた。
さも当然の事のように、己が武勇伝と言って憚らない語りを酒の肴と言わんばかりに、飽きもせず吐いていた。
たまにこうして混じる酒宴は、よくはわからないが悪いものではないと感じていた。
しかし話の次第というものに関してくらいは、好き嫌いがあって然る。
多くの内容が呑めず耳を通り過ぎたが、その中でも余り気乗りしなかった事はよく覚えている。
「もっとギューってして、ちゅーってするんだって。 ・・ぽかぽかするんだって」
「なにそれ・・ ・・わかんない」
『よろしいですか蒙恬様。彼の者らはあのように言っておりましたが、本当の所は違います』
(何人娶ろうと、一人だけだろうと。でも)
誰でもいいんじゃないんだって。
「寳子、オレのこと ・・大好き?」
「ん?うん」
『どうか気の置けぬ、拠り所となられるような方をお選び下さい。
蒙恬様をこの世で一番に愛され、それでいてよき妻となりよき母となられるような・・このじィめは、それだけを一心に願いまする』
(でもさ、じィ。その人がオレを選んでくれなかったら。
・・・その後も、そんな人が現れなかったら)
大切な人としか、しちゃいけないんだって。
(オレ、どうしたらいいのかな)
黙りこくる蒙恬に、やはり寳子からの言葉はない。
ずっと抱えたままで
ずっと見つめるままで
平行線を辿る先は、未だ見えない。
(いま、もう全部・・ ・・・全部寳子にっ・・!)
嘘も、真実も。
抱き締める腕に力を込める。
彼女の眉間に幾許の困惑の跡が見られた。
「なら――――― ごほっ・・!」
やっとの思いで声を発したかと思えば遮られる。
ここから端を発し、蒙恬は暫く咳き込むと肩で息をした。
寳子は背を擦りつつ時に呼吸に合わせ叩いてやる。
少女は安堵感に笑みを浮かべると、同時に視界が滲んだ事を知りますます彼女に身を寄せた。
「大丈夫? 声、まだ擦れてるんだ」
「・・うん」
「薬、きいてないのかな。どんどん低くなってる気がする。 ・・今度多めに、持ってくるね」
「・・・・・ ・・うん。ありがとう、寳子」
「恬・・声、気にしないで。
・・・女の子だもん。はやく、なおそ・・ ・・・・」
寝入る前の騒動にか、それとも何か。
まるで大罪を犯したかのように蒙恬は顔を伏せる。
低く頷くと返る答えもなく、代わりに安らかな寝息が聞こえてきた。
「・・その前に、どうしようもない」
どうしたらいい以前に、どうしようもない。
軽はずみであった過去の己を悔いる。
嘘のように信じ込む彼女を可笑しいとさえ思い、箝口令まで敷いてからかっていた。
いくら見目が娘のようであっても、延々騙され続ける者など居はしないだろう。
それが通じないと知った頃には半年が過ぎ、それから自分を後ろめたいと思う様になってからでは遅すぎた。
今現在も隠し通してはいるが、その頃とは明らかに違う想いの先からである。
蒙恬は寳子に娘ではないと知られた時の自身の存在価値と、免れぬ落胆を目にするのが怖かった。
『やったやったッッ!!!蒙恬女の子なんだねっ!
すっごく嬉しい!私の周り男ばかりでちょっと寂しかったんだぁ・・!』
蒙武さまのお子は男と聞いていたから!
『仲良くして欲しいっ!女の子同士、色んなこと話したり遊んだりしようねっ!』
自身の概念を曲げてまで、すんなりと信じ込んでくれた彼女に対し。
蒙恬は自分の存在自体を裏切りのそれと決めつけ、この頃には既に身動きがとれずにいた。
一人立ち往生し、悩んで、結局流されて。
それでいて相談するには余りに自業自得、馬鹿らしいと顔を覆って至る。
「ごめん」
この生ぬるさから出られない。
「まだ言えない」
でも言わないと
もっともっとどうしようもなくなるってわかってるのに。
真実を知った時、彼女は責めるのだろうか。
ただ怒るのだろうか、無言で立ち尽くすのだろうか。
その全てだろうか。
その全てでいい、だから。
「・・・ ・・嫌いに、ならないで」
未だ彼女の中の『恬』であり続ける事を選ぶ。
騙し続ける事を『少女』は選んだ。
彼女も、自分自身も。
その方が今はどちらも幸せなのだと、蒙恬は現こそが悪夢と遮るかのように目を閉じる。
少女が彼と呼ばれるのは、まだもうしばらく先のこと。
20130811